学生時代からずいぶんいろんな舞台を観てきましたが、観劇中にグラッと地震がきたのは初めて。
7月28日午後7時15分ごろ、茨城県南部が震源とやらの地震。東京は震度3だったということだけど、あの歌舞伎座の中ではもっと、土曜日の震度5くらいには感じました。
しかもいきなり直下の縦揺れでズンッとつきあげて、しばらく横揺れ。客席はもちろんざわめき。
舞台上では折しも、菊之助の獅子丸が、時蔵さんの織笛姫の恋心を拒絶してる、静かな場面。
ちょうど菊之助のセリフの最中だった。顔色ひとつ変えず、英語で言うところのwithout missing a beat、一拍たりともずれずに、そのまま演技を続ける。
頭上ではライトがぐらぐら揺れてるだろうに。たいしたものだ。
あの間、菊之助と時蔵さんが互いに目と目で何をどう語り合っていたのか、じつに興味がある。
ともあれ、老朽化著しい歌舞伎座だけあって、しばらくかなり揺れていた。一面の白百合と朱塗りの太鼓橋、美しいお小姓と赤姫の語らいを眺めながら、私も揺れていた。
どうせ死ぬなら、こうやって美しいものを眺めながら死ぬのも悪くない、なんて大げさなことを考えながら。
さて芝居。初日直後に観て、楽日近くに観たいと思ったわけだけど、やっぱり観てよかった。回り舞台使いすぎの鈍重な舞台転換は相も変わらず、それは蜷川のせいだけど、役者同士のかけあいのテンポの悪さは見事に払拭されていた。さすが。
役者のみなさん、見違えるほど余裕が出ていて。セリフの意味がしっかり入ってるから、言葉遊びの掛け合いも、強弱が以前よりもはっきりして聞きやすく。たくさん笑いをとっていた。というか、全体にノリのいい客席だったなあ。男と女を行ったりきたりする菊の演技とか、楽しいくらい受けていた。
菊五郎さんのマルヴォーリオが真黄色で出てくるところなんか、前列のおじさまたちが肩や頭をゆすって大笑いしてたしなあ。楽しい客席にいるのは楽しいことだ。
そしてやはり、今年の助演女優賞候補間違いなし!なのはもう! 亀治郎の麻阿。こんなに傑出したコメディエンヌ(……エンヌ、っていうか)だったなんて。表情の切り替わり、目線の使い方、どれをとっても鮮やかすぎる。ああ楽しかった。